書評:ヤバいぜっ!デジタル日本

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そろそろ書けそうになってきたので、滞っていた更新を再開する。こんな状況の繰り返しで甚だ恐縮だが、引き続きお付き合いいただければ幸いである。ひとまずリハビリも兼ねて、渡辺聡氏に「読み手は選ぶがおもしろい」とご紹介いただいた高城剛氏の「ヤバいぜっ!デジタル日本」の書評を書いてみよう。

率直に言って、確かに読み手を選ぶ。というのは、高城氏独特の文体(論旨の一貫性よりも全体の流れを重視すること、および断定的な物言い)にクセがあるのと、記述されている内容の正確性や濃淡がバラバラなのである。平たく言えば、各論ではツッコミどころが満載である。特に第1章のあたりは要注意で、記述されている分野に明るくない方は、少なくとも情報としては眉唾が必要だ。

にもかかわらず総論としては極めて真っ当だ。それは、本書の全体を通じて指摘されているいくつかの論点が、現在の日本の情報通信サービス産業の課題を浮き彫りにしているからだ。立場もプレゼンスも違うが、同氏と似たような仕事を生業としている身として、おそらく同産業に関わる(あるいは注視している)誰もがどこかで感じていることではないか、とすら思う。

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googleの明日を考える

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c4ccdbfecaced17dd10e1f035aaabd8c

意外だったのは、「広告モデルに統一したい」という話だった。世間では、グーグルがビデオ配信などで手数料を徴収するようになったことを「ビジネスモデルの多様化」と評価する向きが多いが、グーグル自身にとっては、手数料は邪道なのだという。「ポータル」として長時間ユーザーを引き留めるつもりもなく、世界中の情報を整理し、すべての人々に無償で利用可能にするという企業理念が最優先だそうだ。

グーグルのいう「広告」は、従来の代理店が仕切る広告とは違うのではないか、という質問には、村上さんも、グーグルは電通のようになるつもりはなく、「ロングテール」の尻尾の部分に重点を置いているので、従来の広告とも競合しないという。私(司会)が「では『狭告』ですかね」と冗談でいったら、「それはいいですね」。

グーグル村上社長“Google八分”を語る | 日経 xTECH(クロステック)

またプライベートな情報も検索の対象に加えていく。パソコンのハードディスク上の情報を検索するGoogle Desktop。ファイアオールの向こう,イントラネット上の情報を検索する,Linuxを搭載した検索専用マシン「Google検索アプライアンス」がその例である。ただし「検索したプライベートな情報をGoogleが吸い上げることはしない」(同)という。Google検索アプライアンスの収入はGoogle全体の収入の1%程度になっている。

また検索やサービスの品質を高めるためには「万人向けのサービスはそろそろ限界に近づきつつある。今後は品質を高めるためにパーソナライズが重要になってくる」との見解を示した。

事前に申し込んでいたものの、残念ながら多忙のため出席できなかった。ただ、主宰者の池田信夫氏のblogや取材した日経BPの記事から当日の概要をうかがうことができた。なんとも便利な時代だとしみじみ思う。

当日は、いわゆるgoogle八分の話やgoogleの私企業としての位置づけなどが議論されたようだが、そこには私は今のところあまり関心がない。むしろ関心があるのは、googleの事業に関する現状と課題である。

その観点でおそらく重要なのは、上記の二点だと思う。なぜなら、前者はgoogleのビジネスモデルの考え方を明示し、一方後者は今後進もうとしている道を暗示しているからだ。

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IT新改革戦略での電子政府IPv6対応宣言

 去る1月19日、日本のIT政策の中枢であるIT戦略本部から、e-Japan戦略に続く新たなIT政策の骨格となる「IT新改革戦略」が発表された。この政策群は、国民生活の利便性向上や日本のIT産業の世界的な競争力強化を目的に、様々なシーンでのIT活用を2010年度までに実現すべく立案されたものだ。
 その一つの「世界一便利で効率的な電子政府」に関する項目で、「各府省の情報通信機器の更新に合わせ、原則として2008年までにIPv6対応を図る」という記述が盛り込まれた。政府の行政手続や、自治体の住民向け行政サービスのさらなる電子化など、より便利な電子政府・電子自治体の進展に、基盤技術としてIPv6採用が宣言されたということである。
 電子政府は従来からも構築・運用が進んでいるが、従来の電子政府は、用途別・機能別にそれぞれ独自のネットワークを構築し、運用されてきた。これは、従来のインターネット技術ではそのような作り方が合理的だったからである。一方、IPv6のネットワークを使えば、単一の通信ネットワーク上で、目的に応じて設定することができる。つまりネットワークを共用化することが可能となる。これはコスト面で大きな利点があるだけでなく、結果的に通信の品質をも高めうる。
 こうした可能性を先取りし、すでに一部の自治体や企業では、電子政府と連携した防災や医療等での新しいサービスの提供可能性の検討に入りつつあり、実証実験も行われている。
 今後、IPv6普及促進も、こうした新たな段階に入るだろう。
(情報通信ジャーナル 2006年3月号に掲載)

先日IT戦略本部から発表されたIT新改革戦略・重点計画-2006(案)でもIPv6の言葉が生き残っていた(37ページ)。しかし結局のところIPv6の普及には、IPv6をインフラ技術として利用することで実現されるアプリケーションイメージやその利便性を、「IPv6という言葉を使わずにどれだけシステムとして仕様化できるか」が、カギとなるのだろう。

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NGNの現状と課題

結局5月は一回も更新できず、気がついたらもう6月も後半である。言い訳をすると、年度末が締めとなる仕事の片付けに連休明けまで忙殺され、少し余裕ができたら再開しようと思っていたら、その年度末にまとめた成果が新たな仕事を呼び起こしてしまう、という悪循環(?)に入ってしまった。待っていても余裕はできなさそうなので、少しずつ再開していくことにする。

すでに今月分も開催されたので旧聞に属する話だが、5月後半に渡辺聡さんが主宰されるEmerging Technology研究会(以下ET研)に参加してきた。今回は"NGN"をテーマに、比較的下位層のあたりで起きている地殻変動がIT業界全般に与える影響を考えるという趣旨で開催され、私はNGNの概要とその周辺で起きているいくつかのトピックをご紹介した。

渡辺さんが執筆されるCNET Japanの情報化社会の航海図でも以前から「アーキテクチャが変わりつつある」という話をされていたが、実際に固定通信網のインフラやアーキテクチャに関する動向は、ここ1-2年で日本のみならず世界的にも活発化してきている。その動きの中で、主要な先進技術が"NGN”というキーワードに収れんされはじめた、というのが現状だろう。

当日の模様は渡辺さんのblogやそちらへのトラックバックを参照いただくとして、大きな成果としては「どこが未整理なのかが整理できた」というところだろう。技術の移行期にそういった整理ができるのはとても有意義だった。

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「アテンション・エコノミー」はどの媒体のものか?

http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20060419nt07.htm

04年にネット広告費がラジオ広告費を追い抜いたことが話題になりましたが、ラジオ広告費はここ数年ほぼ横ばいであり、ラジオがネットに「食われた」ということではないのです。実はネット広告費の増加分は、企業の販売促進費から来ていると言われています。日本の広告市場は6兆円前後ですが、販売促進費用を入れればその倍とも言われます。

企業の広告マーケティング活動におけるネットの利用比率は年々高まっており、それがネット広告費にも反映されているという構図ですね。インターネットには双方向性という特性がありますから、直接物を売るというコミュニケーションも可能です。ネット広告は販売促進機能をもった広告という言い方もできると思います。

マスメディア広告の伝達力は圧倒的であり、インターネット広告がこれに取って代わることはないと思います。ただ、双方向性のあるインターネット広告の登場で、マスメディア広告の役割は絞り込まれると思います。まず、マスメディア広告が消費者に「興味」を芽生えさせる。その「興味」をどのように誘導し、商品の購買へとつなげていくか。そこにインターネット広告の役割があるのではないでしょうか。

全体として概ね異論はない。ただ、ここまで現状を把握できているにもかかわらず、最後のパラグラフにある「マス広告とインターネット広告の役割分担」は、その現状把握と正反対のことが述べられており、少し違和感を覚えた。それこそ、結論以前と結論があまりにきれいな「裏返し」なので、おそらく峯川氏はマスメディアや広告代理店のビジネスモデルに配慮して、あえて正反対のことを言っているのではないか、と勘ぐってしまうほどだ。

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2.0を支える1.0の懐の深さ

Wi-Fi-FreeSpot Directory

The Wi-Fi-FreeSpot(TM) Directory is a listing of Wi-Fi enabled locations that offer Free Wireless High Speed Internet Access. USA State-by-State listings come first with Europe and other regions of the World listed further down the page.

Downtown alliance Free Wireless internet service

The Downtown Alliance has launched a free wireless network in eight different public spaces in Lower Manhattan. You'll enjoy free wireless Internet access from your laptop or PDA. So step out and log on: surf the Web, check your e-mail, and send instant messages while relaxing in the park.

米国・東海岸へ出張してきた。帰国する機内の中でhttp://www.connexionbyboeing.com/を利用してこのエントリを書いている。決して高速な接続ではないが、メールのやりとり程度なら特に大きなストレスもなく利用できる。最近は会社の事務手続きもwebベースになりつつあり、業務上の緊急対応へのスタンバイ等を考えると、手放せなくなりつつある。

日本ではITといえばすぐ西海岸・シリコンバレーが連想されるが、東海岸にも多くのIT企業が存在する。特にワシントンDC郊外のReston地域には、スタートアップ企業から大手SIerまで、数多のIT企業が集積しており、IPOに成功した富裕層も暮らしているなど、さながら「ベイ・エリア」に似た様相が広がっている(とはいえ「過程」はかなり異なるのだが)。

出張の目的自体は業務に直接関わることなので割愛させていただくが、今年に入って3回目の訪米となった今回、改めて米国での「社会におけるITの位置づけ」を認識させられることがいくつかあった。もちろん訪問したのが大都市部ばかりなので偏りはあろうけれど、Web2.0をはじめとした「*2.0」を考える上での手がかり、簡単に触れておきたい。

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世界的なIPv6対応の活発化

 前回は米国の動向を中心に採り上げたが、IPv6の研究開発は日米のみならず世界的に展開している。
 たとえばヨーロッパでは、従来からEU政府が中心となって研究開発プログラムを構成し、アプリケーションやシステム開発におけるテスト環境でのIPv6対応に関する「標準化」に向けた仕様策定を行っている。また民間分野でも、携帯電話や自動車など、彼らの「得意分野」でのIT利用における基盤技術として位置づけで取り組んでおり、すでにNokia社からはIPv6対応の携帯電話端末も発売されている。
 一方、アジア地域では、中国・韓国の取り組みが活発である。中国はその絶対的な人口の多さから「IPアドレスの不足」が指摘されており、また地方では電話を含めた通信インフラが未整備である。そのため中国政府はCNGI(China NextGeneration Internet)というプロジェクトを立ち上げ、IPv6技術を活用した通信インフラ整備を実施、2008年までの普及を目指し活動している。また韓国では従来のブロードバンド環境をさらに向上すべく、IPv6に対応したインフラ構築とアプリケーション開発を、産官学が一体となって推進している。
 このように、IPv6に関する市場形成や研究開発は、各国がそれぞれの「持ち味」を発揮しつつ、世界的に活発化している。IPv6先進国を自負してきた我が国も、現状に甘んずるのではなく、これまで積み重ねてきた成果を「すでに実用化に入ったIPv6の先進市場」としてさらに拡大させ、世界的な役割分担の中で自らの位置づけをより明確化する必要があろう。
(情報通信ジャーナル 2006年1月号に掲載)

先日北京で開催された中国IPv6サミットIPv6 Forumが世界各地で開催するIPv6普及促進を目的とした国際会議)に参加してきた。毎年開催されているこの会議に2001年から継続して参加しているのだが、今回の同会議の特徴を一言でまとめるなら、中国のインターネットはインフラ指向を強めている、ということである。特に定点観測してみると、その感を強くする。

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