googleの明日を考える
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/c4ccdbfecaced17dd10e1f035aaabd8c
意外だったのは、「広告モデルに統一したい」という話だった。世間では、グーグルがビデオ配信などで手数料を徴収するようになったことを「ビジネスモデルの多様化」と評価する向きが多いが、グーグル自身にとっては、手数料は邪道なのだという。「ポータル」として長時間ユーザーを引き留めるつもりもなく、世界中の情報を整理し、すべての人々に無償で利用可能にするという企業理念が最優先だそうだ。
グーグルのいう「広告」は、従来の代理店が仕切る広告とは違うのではないか、という質問には、村上さんも、グーグルは電通のようになるつもりはなく、「ロングテール」の尻尾の部分に重点を置いているので、従来の広告とも競合しないという。私(司会)が「では『狭告』ですかね」と冗談でいったら、「それはいいですね」。
グーグル村上社長“Google八分”を語る | 日経 xTECH(クロステック)
またプライベートな情報も検索の対象に加えていく。パソコンのハードディスク上の情報を検索するGoogle Desktop。ファイアオールの向こう,イントラネット上の情報を検索する,Linuxを搭載した検索専用マシン「Google検索アプライアンス」がその例である。ただし「検索したプライベートな情報をGoogleが吸い上げることはしない」(同)という。Google検索アプライアンスの収入はGoogle全体の収入の1%程度になっている。
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また検索やサービスの品質を高めるためには「万人向けのサービスはそろそろ限界に近づきつつある。今後は品質を高めるためにパーソナライズが重要になってくる」との見解を示した。
事前に申し込んでいたものの、残念ながら多忙のため出席できなかった。ただ、主宰者の池田信夫氏のblogや取材した日経BPの記事から当日の概要をうかがうことができた。なんとも便利な時代だとしみじみ思う。
当日は、いわゆるgoogle八分の話やgoogleの私企業としての位置づけなどが議論されたようだが、そこには私は今のところあまり関心がない。むしろ関心があるのは、googleの事業に関する現状と課題である。
その観点でおそらく重要なのは、上記の二点だと思う。なぜなら、前者はgoogleのビジネスモデルの考え方を明示し、一方後者は今後進もうとしている道を暗示しているからだ。
まず前者で触れられているgoogleのビジネスモデルだが、ここでgoogleが指摘する広告モデルとは、テレビや新聞の広告を取り次ぐことで収益を上げる、いわゆる「マス広告モデル」を必ずしも意味しない、ということに注意すべきだろう。池田氏のエントリでも若干触れられているが、googleが目指している広告モデルは、おそらく以下のような要件で構成される。
- ロングテール
- テール部分を最大顧客とし、広告機会拡大を事業の中核とする
- 最大の競争優位性は「googleがすでに有している膨大なデータ量」である
- 検索機能そのものは必ずしも強みではない
- アテンション
- 消費者の購買意識が顕在化した瞬間(=検索時)を対象とする
- 広告効果(広告におけるROI)の向上を実現する
- 従来の広告区分ではむしろセールスプロモーション(SP)に近い
- マッチング
- 広告への誘導を手助けする(広告そのものは広告主が作る)
- 「広告そのもの」ではなく「広告機会」の仲介なのでgoogle自身の業務負荷は小さい
- 一方で広告そのものは広告主が管理できるので、広告主の満足度も高い
一見して分かるとおり、既存の広告代理業務に比べて明らかに効率がよい。また既存の広告代理店の強みとされていた領域(広告制作、広告流通)を逆に手放すことで、既存の代理店と「よく言えば棲み分け、悪く言えば不効率業務の押しつけ」を行っている。そしてgoogle自体の最大の資産である「データ」を前提としている以上、競合の参入障壁は極めて高い。
このような「googleに最適化された」広告モデルがすでに構築され、それにより収益を上げており、しかもその寿命がまだまだ続くと考えられる以上、googleがそう簡単にこれを手放す理由はない。そしてgoogleが広告モデルへの統一化を堂々と宣言できるのは、その広告モデルの完成度に対する強烈な自信の裏返しなのである。
一方でgoogleは、こうした状況が長くは続かないことを理解している。両エントリではいずれも明示されていないが、たとえば
- 実はテールの末尾までリーチできていない
- 実は「クエリ入力→検索結果表示」の過程はアテンションではない
- 実はそれほど正確に広告をマッチングできていない
といった課題はすでに認識しているだろう。実際、googleの広告モデルにおける「絶対的な優位」は同社の抱えるデータ量「だけ」であり、前述したその他の要因はいずれも「相対的な優位」すなわち既存の広告事業(ネットを含む)と比較した際の優位性に過ぎない。またデータ量にしても、たとえば競合であるYahooやMSNも同様の取り組みを強化しており、未来永劫にわたって続く優位性を有するものではない。
おそらくgoogleはその解決策の一つとして「パーソナライズ」と位置づけているのだと思われる。すなわち、googleが抱える莫大なデータを、ユーザの状況というクエリを使って「あなた色に染め上げる」という工夫である。これができれば、ニーズに応じてよりテールの末尾にある情報も提供できるし、アテンションにも近づける。その結果、よりニーズにマッチした広告機会が提供できることになる。
ただ、ここでもgoogleの考えるパーソナライゼーション像を検討する必要があろう。少なくともそれは、これまでの「オプトイン」や「アフィリエイト」のイメージとは異なるものだと私は想像している。この先は恐縮ながら例によって問題提起のみとなってしまうが、
- 「ユーザ」をどう考えるか
- 「ユーザの状況」とはどのようなものか
- 「ユーザのリソース」と「googleのリソース」をどう関連づけるのか
- その時に必要となるプラットフォームの要件はどのようなものか
といったあたりがおそらく「googleのパーソナライゼーション像」を検討するカギとなろうし、さらにいえばそこが今後のgoogleの研究開発の中心(そしていわゆるgoogleウォッチャーたちの関心の中心)になっていくのではないだろうか。