「アテンション・エコノミー」はどの媒体のものか?

http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20060419nt07.htm

04年にネット広告費がラジオ広告費を追い抜いたことが話題になりましたが、ラジオ広告費はここ数年ほぼ横ばいであり、ラジオがネットに「食われた」ということではないのです。実はネット広告費の増加分は、企業の販売促進費から来ていると言われています。日本の広告市場は6兆円前後ですが、販売促進費用を入れればその倍とも言われます。

企業の広告マーケティング活動におけるネットの利用比率は年々高まっており、それがネット広告費にも反映されているという構図ですね。インターネットには双方向性という特性がありますから、直接物を売るというコミュニケーションも可能です。ネット広告は販売促進機能をもった広告という言い方もできると思います。

マスメディア広告の伝達力は圧倒的であり、インターネット広告がこれに取って代わることはないと思います。ただ、双方向性のあるインターネット広告の登場で、マスメディア広告の役割は絞り込まれると思います。まず、マスメディア広告が消費者に「興味」を芽生えさせる。その「興味」をどのように誘導し、商品の購買へとつなげていくか。そこにインターネット広告の役割があるのではないでしょうか。

全体として概ね異論はない。ただ、ここまで現状を把握できているにもかかわらず、最後のパラグラフにある「マス広告とインターネット広告の役割分担」は、その現状把握と正反対のことが述べられており、少し違和感を覚えた。それこそ、結論以前と結論があまりにきれいな「裏返し」なので、おそらく峯川氏はマスメディアや広告代理店のビジネスモデルに配慮して、あえて正反対のことを言っているのではないか、と勘ぐってしまうほどだ。

確かにマス広告の伝達力は強力である。インターネット広告は当面これに太刀打ちできないだろうし、太刀打ちしようとも思わないだろう。しかしインターネット広告の興隆を前にした時、マス広告は

  1. 媒体による広告機会の制約が大きい
  2. 媒体に接触してもらえなければそもそも成立しない
  3. 消費者のリアルタイムの関心をトリガーにできない

といった弱点を露呈する。そしてこれらは「広告の伝達力」にも直接影響する要因である。

まず1について、そもそも広告は媒体を選ぶだけでなく、媒体から選ばれもする。たとえば、蛯原友里押切もえが大挙して登場する雑誌に、「水戸黄門名作選・由美かおるスペシャル」のDVDの広告は掲載されない、ということである。これはどんなに広告主が「掲載したい」と希望しても成立しない。そこに広告代理店の調整機能の役割があるのだが、調整をしなければならないというのは、そこにマス広告の限界があることを意味する。

次に2は、そもそもその媒体自体にどうすれば接触してもらえるか、ということである。昨今しばしば言われる「テレビの視聴時間の減少」や「雑誌販売の全体としての不振」などはその典型的な問題の一つだ。すなわちテレビの場合、そもそもその媒体から消費者が遠ざかってしまっている可能性がある、ということである。しかもハードディスクレコーダの登場でCMスキップの問題はより顕著になりつつある。これでは伝達もへったくれもない。

しかし、インターネット広告と比較した際のマス広告の最大の課題は、3だろう。これはマス広告がマス広告であるがゆえの宿命でもあるのだが、マス媒体であるがゆえに、各々の消費者に向けた情報発信は常に「プッシュ型」すなわちサプライサイドの都合によらねばならないのである。もちろんそうやって喚起される消費意識も多くあるしそれは否定しないが、一方で「押しつけられている、鬱陶しい」と感じることもあるだろう。

インターネット広告は、そこを逆手に取ることに成功した。特にgoogleの一連の活動が顕著だが、検索のキーワードという「いま消費者が一番関心のあること」をトリガーとし、あたかも消費者自身が直接その広告を引っ張り出したかのような感覚で、広告を発信できる。これがマス広告と比べた際のインターネット広告の最大の強みである。

だとしたら、「消費者に興味を芽生えさせる」のは、むしろインターネット広告の役割になっていくのではないか。一方、少なくとも既存のマス広告の手法だけでは、その役割を担えなくなってきているのではないか。その意味で、テレビをはじめとしたマス広告が喚起するのは、「アテンション」(関心に基づく行動の喚起)ではなく「アウェアネス」(関心を持たせること)であると整理できると思う。

無論この両者の違いは、すでに広告代理店、媒体関係者、あるいは行政等の間でも議論が進んでおり、マス広告側でも早晩新たな展開や枠組みが登場することになろう。また通信だけでなく表示技術等も含めた、広告に関係する技術全体からの視点による問題の整理も必要である。その意味で、インターネット広告の動向を見ているだけでは、「アテンション・エコノミー」の実像を見失うことになろう。

特にこの整理の際に、前述の記事でも指摘されているとおり、ネット広告がSP費(販促費)から切り出されていることが一つのポイントになるだろう。実際「消費者とのインタラクション」はネット広告の機能として大きな部分を担っており、顧客戦略と一体化しているケースが多い。その意味ではもともとマス広告よりもマーケティング的な意識を強く有していたはずだし、SEO検索エンジン連動型広告もそうした前提があって成立している。

いずれにせよ、インターネット広告が一定の市民権を得る中で、上記のような問題意識でこれらの媒体の役割分担を整理する必要が生じている。おそらく、その中で起こりうる役割分担やビジネスモデルの変化こそが、「アテンション・エコノミー」論の本質なのだろう。