GoogleによるYouTube買収(2)

すでに発表から1週間以上が経過し、日本のblogosphereでも語り尽くされた感がある。ただ実際のところ、その詳細が明らかにされていない以上、どうしても周辺をぐるぐると回遊しているような感覚がある。

もちろん本エントリとてそれは同じことなのだが、後発の優位性(というのは遅筆の言い訳に過ぎないが)を活かして、当事者から公開された情報をもとに、解読のための補助線を整理してみようと思う。

まずフレームワークとして、以下を大見出しに設定する。

全部書ききろうと思ったら思いの外長文になってしまいそうだったので、以下個別のエントリとする。

買収の目的

今回の買収は、急成長・急拡大を遂げたYouTubeのオンライン・ビデオ・エンターテインメントのコミュニティと、Googleが持つ情報の体系化や新しい広告モデルのノウハウとの統合をもたらします。両者は今後、ビデオのアップロード、視聴、共有等に関する、優れた包括的なサービスの提供に注力します。また同時に、またコンテンツホルダーがより多くの視聴者にコンテンツを配信するための新しい事業機会を提供することになるでしょう。

今回の買収目的として大きく以下の二点が挙げられている。

  • ビデオのアップロード、視聴、共有等に関するサービス提供の拡大
  • コンテンツホルダー向けの配信事業

まず、いずれもこれまでのYouTubeの事業強化という視点で論じられていることが興味深い。すなわち、Googleにとっての買収効果について、もちろん軽く触れられてはいるが、多くは論じられていないのだ。

そのトーンにまずは従ってみるとして、ここでいうYouTubeの事業強化とは何か。大きくは「事業効率の向上」と「事業リスクの低減」に分けられる。

前者の事業効率の向上は、プレスリリースのコメントにもあるように、Googleが持つ技術・事業ノウハウのYouTubeへの注入を意味していると思われる。具体的には、

  • Googleが配給する広告をバルクで調達することによる仕入れ原価の低下
  • Google Videoですでに手がけている映像広告を用いた広告機会の向上

などが挙げられる。

これまでYouTubeは、プロモーションなどの映像配信媒体として高付加価値事業を狙ってきた。そのため広告モデルの積極的な採用は、従来のビジネスモデルの転換を迫る動きとなる。しかし実際に、YouTube自身が期待するほどにそのビジネスモデルが機能していたとは考えにくい。むしろ現時点では、広告モデルによる収入に依存していたと考えた方が自然である。

そこで当面の事業効率の改善として、Googleの広告のバルク調達による仕入れ原価の低減と、映像広告による広告機会の向上により、事業効率の改善を目指したのではないだろうか。これはGoogleにとっても事業機会の拡大につながる動きであり、YouTube買収のメリットを活かせることから、Googleの株主に対する説明責任も果たせよう。

一方、事業リスクの低減としては、

  • 主に回線費用の負担から来る当面のキャッシュフローの向上
  • プロモーション媒体としての付加価値向上

が挙げられる。

前者については、ちょうどこの買収発表の数週間前にNewsweekでも「YouTubeの危機」に関する記事が掲載されたが、実際に厳しかったのだろう。特に米国では「ネット中立性」に関する議論が今も盛んであり、YouTubeGoogleに続くそのスケープゴートとされた可能性は否定できない。

実際にそこまで露骨かは分からないが、たとえば通信事業者がトラヒックを厳密に計測し、より厳格な(有り体に言えば高い)タリフ、もしくはそれに類する契約内容の変更を要求していた可能性も考えられる。また、「月1億円」という数字が聞こえてくるということは、月額ベースでのトラヒック見合いによる請求が行われていることも示唆している。YouTubeの会社としての若さ(すなわち資本蓄積や信用の少なさ)から考えても、月ベースでのキャッシュフローが経営の維持に直接影響を与えるであろうことは容易に考えられる。

それに関連して、これは私の憶測だが、今回の買収はほぼ数ヶ月で決したと思われる。実際、今夏には「日本法人を作りたい」などという創業者のインタビューが報道されていた。発言の真意は定かでないが、この時期に買収交渉に入っていたとすれば、さすがに軽率な発言はできなかろう。そう考えると、本格的な交渉は2-3ヶ月で概ね決着がついたと考えるのが妥当だろう。諸々を考えると、それくらい逼迫していた、と考えてもあまり違和感はない。

一方後者は、これまでYouTubeが採用してきた戦略の拡大を意味する。ただし、一般的に媒体価値は媒体のスケーラビリティ(露出機会や集客効果)などによって決まる。YouTubeは集客こそ成功していたが、さらなる高付加価値化を目指すにはより積極的な露出が必要となる。そのためより技術基盤の安定した大規模プラットフォームとして、Google Videoとの共同媒体化が彼らの戦略オプションとなったのであろう。

ただこの際、コンテンツホルダーに対して「クリーン」なビジネスを展開するGoogle Videoとの間での調整が必要となる。そして共同媒体化が「GoogleによるYouTubeの買収」という形で行われる以上、それはGoogleの基準に合わせる形で行われると考えるべきだろう。おそらく今回の買収にあわせて、GoogleYouTubeが放送局や配給会社などコンテンツホルダーとの大量提携を発表したのも、Googleによる手引きがあったものと思われる。