AppleとGoogleのミッシングピース

Apple、Schmitd役員就任でGoogle に急接近 | TechCrunch Japan

Appleはついさきほど(米国時間8/29)GoogleのCEO Eric Schmidtを役員に迎えたことを発表した。魅力あるコラボレーションへの第一歩。オンラインサービスのGoogleMicrosoft、メディア(コンピュータ業界は言うに及ばず)ではAppleMicrosoftのバトルが過熱する中、これは大きな動きだ。SchmidtはAppleの8人目の役員となった。

アップル、グーグルCEOのシュミット氏を取締役に選出 - CNET Japan

Apple最高経営責任者(CEO)Steve Jobs氏は声明で次のように述べている。「改めて言うまでもなく、EricはGoogleのCEOとしてすばらしい仕事をしている。Appleでも取締役として貢献してくれるものと期待している。Appleと同様、Googleイノベーションに重点を置く企業だ。Ericの深い洞察力や経験は今後のAppleの舵取りをしていくうえで、大いに役立つだろう」

気づかれた方もおられるだろうが、私はこの提携(やや勇み足かもしれないが、こう言ってしまってもいいだろう)の狙いが、映像配信サービスの拡充・補完にあると考えている。この動きは、両者のミッシングピースを埋める、それなりに大きな業務提携になる可能性を秘めている。

そして仮に提携が成立した場合、そのサービスの対立候補として両者は、Microsoftだけではなく、むしろYouTubeを意識しているのではないか、とも考えている。そこで、AppleGoogleがこの分野で提携したら、という仮定で、少し状況整理をしてみようと思う。


まず、両者はすでに映像配信ビジネスに着手している。AppleiTMSで映像コンテンツを販売しているし、GoogleにはGoogle ビデオというサービスがある。いずれも日本では正式にサービスが提供されていないこともあり、あまりプレゼンスがないものの、両者とも将来の主力サービス候補として位置づけ、力を入れている。

ただ両者には、Appleには「ビジネスモデル」が、またGoogleには「サービスの利用スタイル」が、それぞれ不足していた。そしてそれが、両者の普及を今ひとつ停滞させる(そしてそのすきにYouTubeを急成長させる)要因になっていた。

一方のAppleの映像配信だが、基本的にドラマやニュースなど、テレビ放送の二次利用が主力商品となっている。これは、端末としてVideo iPodで視聴することを前提にしているため、小さな画面で視聴しても問題がなく、また通勤途中や休憩時などの20-30分程度で視聴できる映像、という利用スタイルを念頭に置いたラインナップだと考えられる。Appleはこれを1映像につき数ドルという料金設定で販売している。

しかし、そもそもVideo iPodがまだ十分普及しきっていない。またテレビは基本的に無料(もしくはCATVなどの定額制)で視聴できるサービスであり、コンテンツ単位での課金にはなじまない。まして今はYouTubeにすぐ映像が掲載され、映像を見逃してもすぐPCで視聴できる時代である。ユーザの端的な感覚としては、「なぜ昨晩はタダ同然で視聴できた映像にお金を払わなければならないのか」というところであろう。

他方、Googleの映像配信は基本的に無料で行われている。ラインナップは、クリエイターが独自に制作した映像をはじめ、ドラマ、音楽PV、映画トレイラー、テレビ局の独自映像クリップ(おそらく番組宣伝の素材をベースとしたもの)など、多様な種類で構成されており、基本的にすべてPC上で視聴することになっている。

ところがこのサービス、率直に言ってあまりおもしろいものではない。実際、ユーザからの支持や注目度という意味では、日米ともにYouTubeの方が高いのではないだろうか。いくつか理由は考えられるが、一ユーザとしての立場で言えば、ラインナップがあまり充実していないことに加え、Google Videoというサービスの利用スタイルが今ひとつ分かりにくいのである。

GoogleがVideoに参入するのであれば、検索をトリガーにして何か映像が提供される、という利用イメージを連想するのがユーザとしては自然だろう。しかし現時点でGoogle Videoは検索と必ずしも連携していない。ならば独立したサービスとしてラインナップの拡充やインターフェースの機能拡張などが行われているか、というとそうでもない。結果として、「あえて利用しなくてもいいもの」という位置づけにあるように思われる。

今回の提携は、この両者の課題を相互に補完する可能性がある。すなわち、

  • AppleにはGoogleの広告配信というビジネスモデルの採用
  • GoogleにはiPodという端末を前提にした自身のサービスコンセプトとそれに伴う利用イメージの確立

をそれぞれ促しうるのである。また場合によっては、インターフェースや端末の相互乗り入れを果たした上で、「無料コンテンツはGoogle、課金コンテンツはiTMS」といった棲み分けも実現しうる。

この補完によって、両者のサービスの完成に一歩近づけば、YouTubeとはまた異なるサービスモデルが成立することになる。またすでにAppleGoogleもテレビ局などコンテンツホルダとの契約に積極的であることからも分かるとおり、その新しいサービスモデルは既存のプレイヤーをYouTubeよりも明示的に巻き込んだ形で広がることになる。その結果、映像配信サービス全体が、質量ともに大きな発展期を迎えることにつながるだろう。

もちろん、両者の提携だけですべてがうまくいくとは楽観できない。両者がもたついていた間に、すでにYouTubeは相当に大きな存在となってしまった。一部では経営の存続を危ぶむ声も出ているが、私はいくつかの理由でYouTubeが今後も成長を続けるだろうと考えている(これはいずれ書くことがあるかもしれない)。またYouTubeには明確な利用スタイルがあり、その利用スタイルは(端末やインターフェースも含め)両者のそれを凌駕する可能性があるとも思う。

いずれにせよ一つはっきりしているのは、日本は残念ながらこの分野で相当に出遅れてしまった、ということである。ただ、以前のエントリでも書いた通り、今さら後追いをしても仕方がないのは明らかである。映像コミュニケーションはまだまだ開拓されていない領域の多い分野だし、実際彼らが現時点で手がけているのは「完パケの配信」という領域に過ぎない。むしろ彼らの動向を睨みながら、彼らがまだサービス化に至っていない分野での開発を行うことが重要なのである。