mixiが超えるべき壁
「mixiの画像ファイルは1日に23Gバイトずつ増える」---バタラ・ケスマCTO | 日経 xTECH(クロステック)
日本最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「mixi」を運営するミクシィのバタラ・ケスマCTO(最高技術責任者)は8月23日,都内で講演し,mixi内の画像ファイルは合計で9Tバイトを超えていると説明した。さらに「1日に23Gバイトくらい増えている」(バタラCTO)という。
バタラCTOによるとmixi内の画像ファイルは2種類に分かれる。つまり,(1)プロフィールの写真やコミュニティのロゴのように頻繁にアクセスされる画像と,(2)日記やアルバムの写真のようにアクセス頻度の少ないものだ。(1)はファイル数が少なく,サイズも合計で数百Gバイトしかないのに対し,(2)はファイル数が多く,合計で数Tバイトに及ぶという特徴がある。
今年の春先、mixiの笠原氏にインタビューする機会があった。今はまだリンク先はエラーメッセージしかないが、来月になればこのあたりに原稿が掲載されるのではないかと思う。
上記の記事を読んで、同氏が「すでに静止画についてはflickrあたりよりも多くのデータを有していると思う」とコメントされた記憶が甦った。そしてそれと同時に、株式公開を控えたmixiが今後進もうとしている道について、いくつかのことが思い浮んできた。
動画の実験を始めた時点ですでに多くの方が予想された通り、おそらく彼らは、日本版のflickrでありyoutubeを目指しているのだと思われる。実際上記のインタビューでも「せっかく集めたこうしたデータをサービスに活用しない手はないし、それが今後の課題の一つだ」と述べていた。こうした、いわゆる「Web2.0的サービス」をmixiが目指すであろうという予想には、そう異論を唱えられる方はないと思う。
一方で、バタラ氏の講演内容を読むと、利用者間での共有の対象となりそうなデータ(同氏の分類に従えば(2)のファイル)を処理するためのシステムは、まだ十分にできていないと考えられる。リンク先の全文をお読みいただけると分かるが、(1)のデータについてはすでにキャッシュサーバや外部CDNの利用などの具体的な解決策を採っているのに対し、(2)についてはまだ課題として顕在化していない、という気配である。
私自身もmixiを積極的に利用しているユーザの一人だが、上記の傾向は一ユーザとしての実感とも一致する。たとえば日記やコミュニティに掲載されている静止画データは、そのエントリがあった直後にはアクセスが集中するが、当然ながらそのアクセス元はマイミクもしくはコミュニティ参加者が圧倒的である。そしてそれは数日もすれば(次のエントリが更新されるか否かに関わらず)まるでアクセスされなくなる。
すなわち、これまでのmixiのサービスでの使われ方では、ユーザがmixiに登録したデータを利用する対象やアクセスされる時間や規模が限定されていた、ということである。これは、検索エンジンによって過去のエントリにも容易にアクセスできるblogや、利用者の紹介の連鎖によって利用の拡大が続きうるyoutubeなどのサービスと、大きく異なる点である。
こうした相違は、blogやyoutubeが「コンテンツ」ドリブンのサービスであるのに対し、mixiが「コミュニケーション・関係」ドリブンのサービスである、というところに起因する。すなわち前者が、コンテンツそのものを起点としてコミュニケーションや人間関係を展開していくサービスであるのに対し、後者は予め形成されていた人間関係やそこでのコミュニケーションを起点としてコンテンツを利用する、ということだ。
ここで注意すべきは、この相違がmixiの欠点ではなく、むしろmixiのサービスを特徴づけるものだ、ということである。つまり、人間関係やコミュニケーションを「閉じる」指向性を持つことで、コンテンツのやりとりの信頼感を高めている、ということである。ここでこんな記述をすると思わぬ「炎上」を招くかもしれないが、blogのコメントよりもmixiの日記のコメントの方が安心・信頼できる、という声もちらほら聞く。
一方、データ流通の拡大という観点では、当然「閉じている」ことは制約条件になる。また日記などの「文脈」がなくてもコンテンツとして成立しうるだけの流通性や完成度を有しているデータであれば、それをより多くの人が使えるようにすることはmixi自身の事業機会を拡大することにも資する。ごく安直に考えても、プロモーションとの連動やアフィリエイトなどに有意だ。
そこで私は、mixiが株式公開で得た資金を、Web2.0的アプローチを実現するシステム開発と運用のために投入するのではないか、と考えている。つまり"mixi2.0"である。それらが事業機会の拡大に資することは間違いないし、それは株主にとっても意味のあることだ。具体的には、(2)のデータの流通向上を目的とし、スケーラビリティを有したDBの構築、検索機能の拡充、メタデータ生成(タギング)システムの検討、ユーザインタフェースの改善、などが考えられよう。
一点気になるのは、"mixi2.0"が果たして既存のmixiユーザにとって本当に求められているサービスの展開なのか、ということだ。正直なところ各ユーザがどのようにmixiを利用し、全体としてどういった傾向があるのかは分からないのだが、少なくとも私自身の実感としては、前述のとおり「閉じている」ことがmixiの特徴であり、blogやyoutubeに対する一種の競争優位性であると感じることがある。すなわち、"mixi2.0"はそれを失わせてしまうのではないか、という懸念だ。
ただ、そのアプローチ自体に、異を唱えるつもりはない。むしろそれを彼らがどう克服していくのかは非常に興味深い。もし彼らが何らかの方法でその克服を成し遂げたとしたら、それは携帯電話のデータ通信や各社のメッセンジャーサービスなどの顧客の囲い込みによって成立していたサービスを「開いていく」方法としても有効だと期待されるからだ。あるいはひょっとすると、いわゆる「通信と放送の融合」を解く上での一つのヒントになるかもしれない。
その意味で、これからmixiがどう展開するかは、日本のネットサービスの将来像を検討する上でも注目すべき事例の一つとなろう。