mixiはいつまでβ版なのか

先日友人と「mixiはいつまでβ版なのか」という話をしていた。

一版にβ版という用語は、パッケージソフトの開発で用いられることが多い。すなわち、パッケージとして完成させる前の最終テストとしてエンドユーザに試用してもらう、というものだ。だからその試用が終わり、製品がパッケージ化されれば、β版ではなくなる。

しかしmixiはすでに日本最大のSNSであり、機能も日々多様化している。単純に考えれば、すでにβ版という段階ではない。では彼らはなぜβ版と自称し続けているのか。そう考えてみると、案外webサービス技術やいわゆるCGMの概念を用いたサービスの根幹にかかわる問題なのかもしれない、とふと思った。

β版という自称を前向きに解釈すれば、おそらく「mixiは日々機能を追加していて留まることを知らない」という態度表明なのだと思う。一昔前、webサイトに「このページは永久に工事中です」という文言を記すのが一部で流行したのと似たようなものだ。一種のマーケティング(もしくはブランディング)手法だと言ってもいいだろう。

一方、後ろ向きに解釈することもできる。すなわち、開発の無計画性に対する免罪符としてのβ版だ。よくいえば「おもしろいと思ったことをすぐに実装する」、悪くいえば「場当たり的にやりたいことだけをやっている」という状況を正当化するため、「まだβ版なので不安定だったり中止するかもしれません」という言い訳を用意している、ということである。

ここまでは概ね議論が尽くされているだろう。問題は、それが外部を巻き込んだ経済としてどこまで成立しうるか、ということである。たとえばmixiで言えば、まもなく株式公開を控えているが、公開後にこういう状況を株主が許すのか。もし許さないとしたら、上場のその日がβ版終了の日になるのかもしれない。

結論として私は、少なくとも当分は許すだろう、と思っている。その理由は、上場後も同様の状況を続けている類似のサービス事業が内外に少なくないからだ。特にいわゆるWeb2.0の概念を用いて構築されたサービスの世界では、「そんなことは当たり前、むしろユーザニーズを満たすにはそのアドホックさが重要」と認識されているふしすらある。またそれは事業が成長を続ける限りにおいて、株主への説明としてもそれなりに説得力を有してもいる。

ただしこの考え方は、有り体に言えば「勝てば官軍」に近いものだ。すなわち成長している(あるいは成長の可能性を大きく見せている)からこそ成立する言い訳であり、成長スピードが鈍化したところで、投資計画の厳格化を迫られると考えるのが普通の株主の感覚だろう。その時、そのプレッシャーを跳ね返すだけの説明ができなければ、いわゆる「普通の開発ペース」に入っていくのだと思われる。

あと、そもそもこの「アドホック重視」の世界観が本当に未来永劫続くものなのかは分からない。あるいは、少なくともこの世界観が成立するためには、

  • 水平分業された事業環境(垂直統合ではサービスの完成度が重視される)
  • 事業フェーズ(エマージングであり、また成長も見込まれることが必要)
  • エンドユーザの認識(webサービスでも安定性を求める声は日増しに高まろう)

といった条件が必要だろう。

もちろん、当面のフェーズではこの柔軟性や機動性が求められており、またそれが利用者に受け入れられている、というのは理解できる。あるいはその受容こそがweb2.0というムーブメントの実体なのかもしれない。また同様に、少なくともmixiに対し「β版であるのはおかしい」と文句を付ける人は、「現時点では」多くないはずだ。

ただしそれはあくまで現状認識の正確性を前提とする。すなわち、そんな「β版でもいいじゃない」という風向きも、すぐ変わる可能性があるのだ。特に個別企業に焦点を絞れば、「そんな設備投資や研究開発の無計画さでは投資できない」とか、「プロモーション活動に使いたかったが、事業リスクが大きすぎて利用できない」といった批判にさらされる可能性はある。というより、実際すでにその批判は一部で生じはじめている(事業者にそう思わせるだけの現象を伴いつつ)。

だとしたら、たとえばwebサービスCGMを活用してして何らかの事業活動を行おうとする事業者は、そういう条件やパラダイムを理解した上でそこに参加しなければならない。そういう視点が欠如していると、サプライチェーン設計がうまくいかず、業務のどこかで何らかの齟齬を来す。そしてたとえば現象として「炎上」を招いたり、また「鎮火」もできず母屋が全焼する。少なくともそういった事業リスクを大きくするだろう。

正直なところ、それらは何らかの一般的な指標によって評価可能なことではない。もちろんクリティカル・マス的なものはどこかにあるのだろうが、それを探り当てるのは相当に困難だ。だとしたら、少なくとも業界全体が成熟していない現時点では、「見極める」より「感じる」ことが必要で、そのスタンスを確保することがリスクヘッジの面でも重要になってきているのだと思う。

web2.0は実はハードルが高い、と私が考える一端でもある。