米国政府のIPv6対応

 IPv6が次世代IP技術の「本命」として選ばれてきた背景には、日本のインターネット研究開発者がIPv6の開発・実装に率先して取り組んだ事実がある。たとえば、LinuxBSD等、UNIX系OSの標準的なプロトコル・スタック(当該OS上で通信を実現するための機能群)は、それぞれUSAGIとKAMEという日本発のプロジェクトによって実装された。またIPv6サービスの商用化は、産学官一体の取り組みが奏功した成果である。
 こうした努力が、ここにきて急速に世界規模で花開きつつある。特に活発なのは、米国政府のIPv6全面採用であろう。
 すでに報道されたとおり、米国・行政管理予算局は今年の8月、すべての連邦政府機関へ2008年6月末までのIPv6対応を要請し、移行計画の策定に向けたガイドラインを発表した。これは、国防総省に端を発する「米国の公的分野でのIPv6導入」を連邦政府全体へ広げたものだが、移行に際し例外規定を原則として設けないなど、相当強力な動きだといえる。またそれゆえ、公的分野と関係を有する民間企業の動向にも、非常に大きな影響力を持つ施策であることがうかがえる。
 米国政府がここまで大きくIPv6に舵を切ったのは、IPv6が「安全・安心」かつ「信頼できる」情報通信インフラを構築できる技術だと認めたからである。こうした認識の形成に日本が果たした役割は大きい。そしてそれらの認識は、日米のみならず、欧州、アジア・中国にも広まりつつある。次号では引き続き、こうした各国のIPv6最新動向を紹介する。
(情報通信ジャーナル 2005年12月号に掲載)

米国政府の狙いはIPv6を普及させることではない。彼らの目的は、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の概念を導入することによる、電子政府の効率化にある。

日本のみならず米国も、中央政府は概ね縦割りの構造を有している。その構造は当然情報システムにも反映され、政府間の情報システムの乗り入れや基盤の共通化、相互運用等はほとんど実現していない。従って政府を一つのものとして見ると、明らかな多重投資になっている。

米国には、GAOOMBなど「行政を監視する機関」が、ホワイトハウスや議会の下に設けられている。彼らはあらゆる行政運営をチェックしており、たとえば農務省にBSE問題の対応の再考を促すレポートなども発表している。この機関の情報システムに関する取り組みの一環として、IPv6の採用をEAの推進の突破口として位置づけているのである。

これまでIPv6の採用は「エンジニアの夢想」と揶揄される面もあった。しかしGAOやOMBが提起するこうした考え方には必然性がある。この「必然性」と、その結果として展開されるソリューションが「成功事例」として出現した時、おそらくIPv6のような新しい技術が広がることになるのだろう。

この「必然性」と「成功事例」を「イノベーションのジレンマ」風に読み替えると、それぞれ「標準化の(静かな)進行」と「キラー・アプリ」に置換することができる。その意味でIPv6周辺はまだ前者の途上にあるのだが、ひょっとするとここは、事業面でのデファクト・スタンダード的なドライバが必要なのかもしれない。

いずれにせよ、IPv6に関する今の私の仕事は、前者を考えること、そして後者を見つけること(あるいは作り出すこと)、なのである。