Appleはハードウェアベンダであるということの確認

http://www.apple.com/macosx/bootcamp/

More and more people are buying and loving Macs. To make this choice simply irresistible, Apple will include technology in the next major release of Mac OS X, Leopard, that lets you install and run the Windows XP operating system on your Mac. Called Boot Camp (for now), you can download a public beta today.

IntelMacの上でWindows XPを走らせるための環境をAppleが提供した。現在はまだベータ版だが、次期OSではデフォルトで導入するという。上記のページに記載された情報では機能や構成は明らかにされていないが、説明文を読む限り、おそらくブートマネージャとファイル共有のためのディスクマウントシステムの複合体、といったところだろうか。

この記事を読んで、ああこの会社はハードウェアの売上が稼ぎの中心をなす、典型的な製造業者だったんだな、ということを思い出した。文字にしてみるとごく当たり前のように見えるが、今日のPC業界でここまで胸を張って「ハードウェアで飯を喰っています」と宣言できる会社は、寡聞にして他にDellLenovoくらいしか思い浮かばない。

Web2.0が云々されるようになってから、改めてソフトウェア産業(もしくはサービス産業)が脚光を浴びるようになった。かくいう私も、Web2.0について論点を整理しているところで、ようやく着手する余裕がでてきたので、近々ここにも記載するつもりだ。ただ、Web2.0を考えれば考えるほど、「モノを作って売る」という単純なビジネスモデルの強さを改めて認識させられるようになった。

もちろん、このビジネスモデルが万能でなく、また繁栄を続けるのが困難であることは、今の日本に暮らす人ならば誰しも実感できるだろう。しかしそれでも、売れている間は確実にお金になるし、売った後の手離れは極めて良好だ。さらにサプライサイドのコントロールが強いので、生産活動をある程度は調整できる。「収穫の装置」としては、相当によくできている。

そもそも「売る−買う」という行為や関係性は、消費者として受け入れやすい。特に両者の関係を結ぶ「モノ」が介在した時はなおさらである。本来なら「価値論」という哲学的命題に至るほど難解なものなのだが、「難解か容易か」ではなく「習慣化しているか否か」がポイントなのである。その点で、「売る−買う」というモデルは、Web2.0で云々されるサービス群にある敷居の高さに比べ、極めて日常的かつ習慣的である。

ただ、単純にモノを作って売れば儲かる、という時代ではない。ましてPCのように急速にコモディティ化した商材を扱う分野においては、単にモノを作っただけでは半年ともたないだろう。そこには少なくとも「誰に何を売るか」というマーケティング戦略と、「どう売るのか」というビジネスモデルの設計が必要となる。逆説的だが、Appleが製造業者として長けている要因は、この両方の力量がずば抜けていることにある。

今回のBoot Campにしてもしかり、である。彼らとしては、どうせ同じハードウェア・アーキテクチャなのだから、お客さんが使いたいというならWindowsXPを使ってもらって結構、でもそれにはMacOSとそれに付随するブートマネージャを使ってもらう必要がありますよ、という宣言なのだ。これは一種の「合法的な抱き合わせ商法」だ。

この戦略が戦略として持続する限り、IntelMacはMacOSの走るハードウェアとしての命を得ることになる。そしてそれは、単にMacOSユーザの獲得につなげるというだけでなく、IntelMacというハードウェアを「DellLenovoとは一味違うPC」として差別化する。

これだけ原価の下がったPCの世界で、IntelMacほどの価格でハードウェアを販売できれば、利益率は相当なものになるだろう。しかも、MacOSユーザを増やすことができるかもしれない。もしこの「抱き合わせ商法」をどこぞの好事家に訴えられ、万一Appleに不利な結果がもたらされても、MacOSを無償化すればいいだけのこと。すなわちAppleとしては、どう転んでも痛くもかゆくもない、おいしい戦略なのだ。

したたかとはこういうことを言うのだろう、という典型である。こういうオペレーションの方法は、学ぶべきところがとても多い。そしてそういった「したたかなビジネス」と正対してこそ、Web2.0という概念を前提としたビジネスが本格的に成立するようになるはずである。逆に言えば、このようなしたたかさを取り込めなければ、製造業かサービス業か、という立ち位置に関係なく、Web2.0に未来はない。